胃潰瘍

胃潰瘍とは

消化管の中心にある空洞を内腔といいます。消化管は内腔から見て、一番表面が粘膜層、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜という層構造になっています。消化管が炎症をおこすと、まず粘膜層が傷つきます。この粘膜層が傷ついた状態が「びらん」です。さらに炎症が進むと、傷は粘膜下層以深に到ります。この状態が潰瘍です。

胃潰瘍の症状

胃痛・腹痛

胃潰瘍では、最も多いのが胃痛で、みぞおちのあたりが差し込むように、「きりきり」や「しくしく」と表現されるような痛みを感じます。みぞおちの辺りの痛みを心窩部痛と言います。痛む場所はあまり移動しないことが一般的です。
また、胃潰瘍では何かを食べた後、十二指腸潰瘍では食前の空腹時によく痛みを感じる傾向があります。胃や腹部の痛みが、一定の周期をもって繰り返されるようであれば、消化管以外の疾患も考えられますので、すぐに医師に相談してください。

吐血・下血

潰瘍をおこすと、消化管の深くまで傷がついた状態になります。そのため、消化管出血がおこる可能性があります。通常、食道から十二指腸までの上部消化管の出血では、嘔吐がおこると吐血になります。出血後すぐに嘔吐した場合は鮮血に、少し時間が経ってからだと褐色のコーヒーのような色の吐血になります。また吐血が無かった場合は、時間をかけて便に混じり下血となります。時間が経っていること、胃液や腸で分泌物が加わっていることなどで、黒っぽいどろっとした便になりますので、タール便と呼ばれています。
こうした出血のサインがあった場合には、ただちに専門医に相談してください。

貧血、失神

出血にともなって、貧血がおこり、ひどい場合には失神してしまうことがあります。貧血になると、息切れ、動悸、冷や汗などのほか、倦怠感や疲れやすさなどを感じるようになります。

腹膜刺激症状

腹膜刺激症状は、胃潰瘍の場合、消化管の潰瘍が深く進み、漿膜を通過して穴が開いてしまった(穿孔)場合や、さらに進行して他臓器を傷つけた(穿通)場合などにおこります。動けないほどの痛み、お腹を押して手を離したときにおこる強い疼痛などの症状がおこります。このような症状がおこったら、救急対応を含めて、すぐに治療を受ける必要があります。

無症状

腸管粘膜には、痛覚神経が通っておらず、浅い傷であれば痛みを感じません。そのため、自覚症状があらわれないこともあり、偶然定期的な、あるいは他の疾患での胃カメラ検査などで発見されることもあります。定期的検査の重要性を示す一例でもあります。

胃潰瘍の原因

胃には強い胃酸で自らの粘膜を消化してしまわないよう、さまざまな防御機能があります。また十二指腸でも、胃酸で酸化された食物が入ってくると、アルカリ性の膵液などの分泌を促進して酸性を中和しようとする働きがあります。そのため通常は胃液の強い酸性の影響を受けることはないのですが、この防御機能を微生物や化学物質が低下させてしまうことがあります。
微生物の代表はピロリ菌であり、薬剤としては非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)であるロキソプロフェンやアスピリンなどがあります。さらに、強いストレスなどの心因的な要因、飲酒や喫煙、疲労といった生活習慣上の問題などが関係することもあります。

胃潰瘍の検査

胃潰瘍の確定診断には胃カメラ検査が必要になります。潰瘍は、胃がんやリンパ腫などの悪性新生物でもおこることがありますので、胃カメラ検査を行い、疑わしい病変は組織採取して病理検査をおこなって確定します。

胃カメラ検査について

胃潰瘍の治療法

ピロリ菌の除菌

検査の結果、ピロリ菌への感染が判明した場合には除菌を行います。除菌には、胃酸を抑制する薬と2種類の抗菌薬を組み合わせて1日2回、1週間続けて服用します。服用完了後、受診して呼気検査などで除菌の成否を確認します。
1度目の検査で除菌できなかった場合は、抗菌薬の1つを少し強いものに変え、同様の方法で服用します。現在では、胃酸を抑える薬としてプロトンポンプ阻害薬のなかでも強力な効果をもつ新しい作用メカニズムのボノプラザン(商品名タケキャプ)という薬の効能が高く、二次除菌まででほとんどのケースで除菌に成功するようになりました。しかし、万一それでも除菌に成功しない場合は三次除菌へとすすみます。

ピロリ菌について

胃酸分泌抑制薬

胃酸の防御機能がうまく働かない原因として、胃液の分泌過剰などが考えられます。そのため、胃酸の分泌抑制薬である、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーなどを服用することで、胃酸を抑えると潰瘍の治癒が促進されます。そのため胃潰瘍治療の中心的な薬剤となっています。

生活で心がけること

原因のところでも触れていますが、強いストレス、仕事が忙しく疲労が蓄積しているなどの社会生活上の問題や、過度のアルコール摂取、喫煙、消化の悪い食物や塩分の強い食事などは、胃の防御機能を低下させます。
現代社会において、ストレスのない生活を送ることは難しいことですが、それでも、食事の内容に気をつけてバランスを考えた食事にする、就寝前に食事をしない、帰宅をしたら、毎日風呂でリラックスするなどの工夫で、これらの要因を減らしていくことは可能です。また喫煙はその他の疾患の原因となることも分かっていますので禁煙を強くお勧めします。

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